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その後の『香炉峯』�

共同演出の空也坊が言っていた。
「我々の世界(能楽界のこと)でも、こんなことは滅多に起きませんよ」
こんなこととはつまり、先日来述べている、今回の公演中に起きた不思議な現象を指している。
今回の公演、反省点も数え上げればきりがないが、一つだけ、これだけは自信をもって臨んだと言い切れる事がある。
いわば今申楽朧座の生命線、最後の最後まで空也坊とともに死守した一線。
それは「こだわり」である。我々にとって能は「師」であり「敵」である、正面からがっぷり能と取り組まなければならない、逃げたり誤魔化したり卑怯な事をしてはならない、さもなくば到底能に太刀打ちすることなどは出来ない──そういう「こだわり」である。
能楽もどきの演劇、演劇もどきの能楽、そんなものは私も空也坊も大嫌いなのだ。死ぬほど嫌いなのだ。そういう奇をてらった催しは演劇界においても能楽界においても正直言って昔から少なくないが、我々朧座はそういう中途半端な自殺行為だけはしたくなかった。能楽=演劇、演劇=能楽という信念だけは忘れまいと常に努めた。
「もっと能楽寄りでも良かったのでは」「もっと演劇寄りでも良かったのでは」
お客様の反応が、大きくこの二つのどちらかに分かれるであろうことはもとより想定していた。
よくある「能楽だか演劇だか訳の分からない、微温的で不愉快」な作品にだけはするまいと、実に実にその一線だけは正直血の出る思いで死守し続けたつもりである。
その信念が果たしてどれほど舞台に反映されていたことか──もはやそこはお客様お一人お一人におゆだねするより他ない。

が、しかし──その信念だけはほめてもらったような気がしている。ある女性から。
いやそれどころか、「どうせこだわるならもっとちゃんとこだわってよ」と、背中をどんと押してもらったような気分だ。
「私はそんなふうには書いてないでしょ。原作、ちゃんと読んでね」
だから、実は公演三日目から台詞をほんの一部だけ微修正したのだ。

「清少納言の声が聴こえたような気がする」
たぶん、この台本を書いた私一人の感覚であろう。
「清少納言は一点だけ台本に駄目出しをして行ってくれた。その駄目出しのおかげで、この台本を書いた時はどうにもすっきりしていなかったところが非常にすっきりした。そして、文献上は確認する事ができないが、実は彼女は中国に渡ったことがある。これから中国について、いろいろ調べることが私にはある」
と、ふとそんな気がしたのだ。錯覚だろうが思い込みだろうが、呼ばれ方などは何でも良い。
ふと、そんな気がしたまでの事なのだ。
それもあってここ香港に来たのである。

もとより、非当事者が読めば、いかにも熱に浮かされたような信じ難い内容であろう。折も折、Yahoo! JAPANに当サイトが掲載された。サイト立ち上げ当時は、朧座関係者を主な読者に想定して更新していた。しかし今や事情が異なる。第一回公演が終了し、大手検索エンジンの能楽サイト欄に、他の名門能楽師らのサイトと同列に紹介されてしまっている。
当サイトの公的色彩を考慮し、今後しばらくの間はこの話題を離れることとしよう。

私一人の思惑はともかく。
朧座第一回公演『香炉峯』は、もう、とっくに終わったのだ。
今、朧座は次に向かわなければならない。前進しなければならない。

空也坊はこんなふうに言っている。
「今度は四番目、直面物なんかどうです」
四番目、直面物とは能の用語。劇能とも呼ばれ、『香炉峯』とは正反対の作風を言う。

また、私の先輩格に当たるある劇団の主宰者が、自身のサイトに概ねこんな感想を書いて下さっていたのがとても嬉しかった。
「朧太夫プロデュースの今申楽朧座を見に行く。古文の口調が若干難しい。まあ、新しい事をやる為に行った初めての作品はこんなものだろう。あと3回程やれば、独自の方法と理論、そして哲学が見えて来てより効率良く作品づくりが出来てくるはずだ。始める事も大変だが、続ける事はもっと大変なのだ。がんばれ」

こういう言葉を裏切ってはならない。
今申楽朧座、第二回公演に向けて全力前進あるのみである。

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2004年06月29日 06:04に投稿されたエントリーのページです。

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