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衆人愛敬〜V6に学ぶ〜

私の立ち位置から見ると、ちょうど、メンバーの誰かが花道で歌いながらお客さんたちと握手を交わしているところであった。
本物を生で観られただけでも興奮しているのに、何と手まで握れて、お客さんたちの幸せそうな事と言ったらない。
そのとき私は心底思った、彼らはお客さんに夢を与えているのだと。

今、私はアイドルグループV6のコンサートのスタッフの仕事をしているのだ。
上記は、開演中、場内でふと覚えた感想である。

連日、このコンサートの仕事をしていて痛感させられるのは彼らの話術の上手さである。毎日決められたプログラムの中で喋っているのに、会話が色あせない。日々、新鮮に雑談しているのだ。
これはなかなか真似の出来ないことである。
ここでひとつ、私なりに彼らの話術を分析してみることにしよう。
まず、役割分担がきちんとなされている。雑談の司会進行役、いわゆる仕切り役に徹しているのは井ノ原快彦氏である。そしてこの井ノ原氏の司会業を様々に補足するのが坂本昌行・長野博そして岡田准一の三氏である。他の二氏(三宅健・森田剛)はいわゆる「いじられキャラ」といったところであろう。三宅氏はともかく、森田氏などはいじられない限り自ら積極的に会話に加わることはほとんどない。たまにいじられてやむを得ず会話に参加しても、あまり他人の話を聞いていないと見えて、見当違いなボケをかましたりする。V6は基本的に真面目そうに見えるタイプが多いので、中にはこういうある種の不良キャラも必要なのであろう。
それにしても井ノ原氏の喋りの上手さはおそらくメンバー中トップであろう。子供番組でも人気があるように、老若男女誰からも親しまれる節度と愛嬌がある。ただおしむらくは司会業に忠実なあまり、総括癖とでも言おうか、いささか話をまとめたがる気味がある。話題が思わぬ方向に転がっても、氏は軌道修正などせず、いま少し静観していて良いと思う。井ノ原氏が黙っていてもおそらく坂本・長野・岡田三氏が何とか収拾をつけるであろう。それでもどうにもならぬ事態に至った時こそ、井ノ原氏のまとめ癖が真に生きるのではあるまいか。
まあ、ついつい場の空気を取り持ってしまわずにはいられぬ人の良さそうなあたりが氏の魅力なのでもあろうが。

しかし、役割分担がきちんとなされているなどというのはグループなのだから当たり前の話だ。
彼らの話術の真骨頂は、観客を上手く話題に巻き込んでいくところにある。飾ったり気取ったりしないから親しみやすいのだ。昨日は朝まで井ノ原の家でテレビゲームをやっていた、坂本の実家は八百屋で長野の実家は自転車屋だ、坂本はゴキブリが苦手で岡田はゴキブリを取るのが得意だ、一時が万事こんな話題ばかりである。まともなアイドルがコンサートで話す内容ではないと、本人たちが笑っていた。

そういう、アイドルにあるまじき身近な雰囲気に徹することで、彼らは芸能界という雲の上から代々木体育館の地上に降り立ち観客の心を見事に掴んでいるのだ。
つまり、彼らは常に観客を意識し、観客と対話しているのである。
たとえ観客と直接言葉をかわすことは稀であっても、心の内においては常に観客と対話していることがよくわかる。
単に顔が良いだけで花のないアイドルとは、そこのところが決定的に違うのだ。

ここで突然、世阿弥の『風姿花伝』を引く(便宜上、現代仮名遣・新字に改める)。
「この芸とは、衆人愛敬(=観客みんなから愛されること)をもて、一座建立の寿福とせり。(中略)よくよく、この風俗の極めを見るに、貴所・山寺・田舎・遠国・諸社の祭礼に至るまで、おしなべて、そしりを得ざらん(=全国どこをまわっても、そしりを受けぬような芸人)を、寿福の達人の為手(あっぱれ達人の役者)とは申すべきか」

返す返すも、我々は観客の存在を忘却してはならない。

そういえば先日、さる有名劇団演出部に所属する友人と話していて教えてもらったことがある。彼女の劇団では、出演者のみならず、制作関係者、受付の者など、観客の前に立つ全てのポジションを裏方に対し「表方」と総称するのだそうだ。
これは大変良い考えだと思う。受付や係員の対応が良ければ、気持ちよく芝居を観る気になれるし、その逆の事態もまたあり得る。
さらに私は、舞台の最終完成者は観客であるという信念が非常に強い。
そこで、朧座衆とは実は表方(客前に立つ。主に出演者と制作)・裏方(客前に立つことなく舞台を支える。制作以外のスタッフ一般)・見所方(観客)という、朧座の舞台を成り立たせる三部門すべてを指し示す概念なのだと私は考えている。

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2004年08月22日 03:10に投稿されたエントリーのページです。

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