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後輩Tの死相

先日、放送作家のW君と、とある居酒屋に飲みに行った時の事だ。
向こうの席で、会社員連中と思しい集団が飲み会をやっている。
ふと見ると、その飲み会の幹事と思しい男の顔に見覚えがある。
ああ、こいつは学生時代、同じ学科の後輩だったTではないか。
明るい性格で、人気者であった。威勢が良く、女性にもかなりもてるタイプであった。
なるほど、そのキャラクターは就職後も健在と見える。しかし、何年ぶりであろう。
あとで、奴に一声かけよう、などと思いながらW君と飲んでいた。

と、そのうち、私は思わぬ事に気が付いた。
Tが泥酔し始めたのである。
壁にもたれかかって前後不覚の体、そうかと思うと今度はトイレに長時間籠もって出て来ない。他の同僚達が心配している。
否、正直に言えば、心配しつつも、半ば敬遠しているかのようでもあった。
そりゃ、あんなガキみたいな飲み方をしていれば、敬遠されて当然である。

見ているこちらまで、ちょっと心配になってきてしまった。
「おい、T、お前飲み過ぎだぞ」と言ってやろうかと思っていた矢先、Tがトイレから出てきた。
そして、偶然フラフラと、私の席の近くまでやって来た。そして、正面から私の顔を見据えた。
何しろ泥酔しているから、私の顔を思い出す余裕などはない。
しかし、少しだけ、不思議そうな気配も感じられた。「どこかで見た顔…」と、最後に残った一抹の理性が訴えたのかも知れない。
が、そこまでであった。Tは宴会の終わった同僚達に抱えられて店を出て行った。

私は、Tに見据えられた時、「おい、T」と声をかけようと思った。
しかし、かけられなかった。あの泥酔ぶりでは、声をかけてもまともに応答など出来ないであろうという気持ちが働いたからだ。
あと、もう一つ。
間近に見てようやくわかったことだが、Tの顔は、完全に生気を失っていた。
あれは、ただの飲み過ぎでそうなったというような表情ではない。
一種の死相である。おそらく、今の生活に生きる喜びを見出してはいないのだろう。
学生時代、この男に漲っていた覇気は、もはや片鱗もうかがえない。
この数年、この男の辿った道がおおよそ看取されてしまう、可愛そうだがそんな顔であった。
そんなTの変貌ぶりに、私は思わず口をつぐまされたのである。

Tが心配である。元気になって欲しい。

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2005年05月12日 19:28に投稿されたエントリーのページです。

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