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頼家祭り

午前2時。昨夜稽古が終わったばかりではあるが、「朝の修善寺が見たい」という装束担当・福原氏の車に製作補・鼓之丞ともども乗り込み、一路伊豆修善寺へ。と言っても道中の記憶は皆無。「ごめんなさい、寝ます!」と叫んで寝て、気がついたら修善寺のコンビニだった。時計を見れば4時ジャスト。コンビニ到着後、なお30分ほど眠りこけていたというので、つまりは片道1時間半で来たことになる。舞台衣裳家は同時に偉大なる「走り屋さん」でもあったようだ…。

さて、ここ修善寺を訪ねるのはこれで幾度目になるだろう。前から行ってみたいスポットがあったので福原氏にお願いする。きっとそこからの眺めはいい筈だ。その名は達磨山高原。富士山と駿河湾とを一望のもとに見渡せることで有名である。案の定、すばらしい日の出を拝む事が出来た…福原氏も本懐叶った模様であった。次に、桂谷にある修禅寺奥の院へ。ここが、本作『修禅寺』のクライマックスの舞台となる。劇中、頼家と政子がこの辺りの山林から富士を眺めるシーンがある…しかし実際にはこの辺りから富士は見えない。桂谷の名の通り、この一帯は谷間であって、富士を拝したければ先の高原方面に向かって達磨山を上らねばならないのだ。
要するにこの物語はフィクションなのである。当たり前だが。

さて、明日の祥月命日を前に、本日この町で行われる頼家祭り。例年行われているそうだが、私は今回が初めてである。が、その前にまだ時間があるので、韮山方面に足を伸ばして願成就院という寺に詣でた。ここには政子の父、北条時政の墓がある。頼家の祭りの日に、併せてその仇敵の墓参りも済ませるとはいささかバツの悪い話だが、とにかくここ願成就院は車の旅でもないとなかなか来る機会がない。以前にも一度来かけたのだが、時間切れで終わってしまっていた。今日こそはと時政の墓前に祈ったものである。
「今回、完全に悪者扱いですがどうぞ御容赦を!!」
この他にもう一つ、見たいものがこの寺にはあった。政子の七回忌に甥の泰時が奉納した地蔵菩薩座像(重要美術品)である。世にはこの地蔵に政子の面影を見る人もあるらしく、見かけたあるサイトによれば通称政子地蔵菩薩とも呼ばれているのだとか(真偽の程は未確認)。
ただ私の見るところ、一般の地蔵像に比べて心なしか顔の作りがリアルな気がする。鎌倉期の作風を差し引いてみても、なお一抹引っかかるものがないではない。泰時は仏師に命じて亡き伯母の顔を模させたのであろうか。

さて、韮山から修善寺に戻って川野氏ご一家と合流。
頼家忌。現在、頼家の墓は修禅寺境内にはなく、修善寺町の管轄になっている。そこで町の依頼を受けた修禅寺のお坊様方が、頼家とその家臣達の墓前で読経供養するという形が取られているが…やはりどこか寂しいものがある。祭りの風情ではなく、在り方がである。有体に言って、非常に不徹底なものを感じる。何度もこの地を訪ねてきた私にはある程度予想がついていたが、川野氏には相当ショックだったようだ。この悔しさ、作品創りに生かそうではないか…。

修禅寺宝物館にて、「頼家の面」を福原氏とともに観る。この面とも、かれこれ深い付き合いとなる。
氏はこの面について、独自の感想を述べられた。
「頼家よりもっと前の時代の作ではないか」「頼家とは無関係ではないか」「もし関係があるとすれば、頼家をまどわした悪魔の面ではないか」「悪魔の面であるがゆえに、頼家政子の愛の力で真っ二つに割れてしまったのではないか」「もし頼家の面ならば政子が放っておく筈がない、必ず人目に触れぬよう計らった筈」
私は氏の感想に心打たれるものがあった。その場では反論できぬ何かがあった。

ともかく、世の中にはいろんな人間がいるのである。この伝承不明の一枚の古面が、かつて岡本綺堂をして『修禅寺物語』を書かせ、今また私をして『修禅寺』を書かせた。そういう力を持った面である事は疑いない。と、ひとまずそんな結論に達して宝物館を後にしたのだったが。

しかし、家に帰ってよくよく考えるに。

母親には悪魔のように見えるかも知れない。
でも、あれはやっぱり「頼家の面」なのではないか…。

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2006年07月17日 23:20に投稿されたエントリーのページです。

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