もう、朧太夫とやらになぞ任せては居れぬ。これからはこのわらはが筆を執る事と致す。
今日はまづ、役者皆で申楽(今は能楽とかいふのかえ)を観て参つた。曲は『鉄輪』と申した。夫に捨てられ悋気のあまり鬼と化したる女の話。よもや太夫とやらめ、この女を役作りの手本に致す所存ではあるまいの。
観終はつて稽古場に向かふ途中、阿部丈がかやうな事を言つて居られた。曰くこのところ酒の量も増え、いささか「気もたれ」が致して居る由。太夫答へて曰く、「そは正しき心の反応なるべし。世には言霊といふものありて、日頃悪しき言葉を使ひ居れば自づから心も悪しうなり行く道理なり。この本には醜き言ひざま多し、くれぐれも健康には留意せられたし」
さやうな本を書いたのは誰ぢや。さも他人事のやうな顔をしくさつて。
さて、稽古場に着いてからは、殺陣、頼家・声、政子・侍女の稽古を致した。
さう、今日から太夫と山本丈の両名、稽古中はかたみに役名で呼びあふ事にしたのぢや。
御花、久しいなう。
皆の努力の甲斐あつて、来月頭には通し稽古に入る由。
今週末には皆で鎌倉と修禅寺に参るとやら。
良いのぢや良いのぢや、何でも良いのぢや、あの子が成仏さへしてくれれば…